blognews Q・相続した家に被相続人(父)の愛人が無償で住んでいるが追い出せるか?この状態でも売れるか?

【結論】
A・相続人が愛人を追い出すのは裁判をしてもほぼ無理。売ることは可能だが一般人は買わないので、実務上では買い取り業者へほぼ無償に近い低い金額での売却となることが多い。
【解説】
1・明渡までの手順
先ずは、相続人が追い出しを試みる場合、いきなり強制執行はできないので、
①内容証明郵便による契約解除・明渡請求をする
→相続人から使用貸借(無料賃貸)の終了を理由に退去を求める通知を送ります。
②任意交渉で和解を求める・立退料を提示する
→法的には立退料を払う義務がなくても、早く解決するために「引っ越し代+数か月分の生活費」程度の解決金を提示して、合意退去を目指すのが、実務上で最もスムーズです。
③建物明渡請求訴訟の提起
→交渉が決裂したり、無視された場合、管轄の地方裁判所に訴訟を起こします
④勝訴判決と債務名義の取得
⑤強制執行の申し立て~断行
→執行官と共に現地へ行って強制的に占有を解除し、残置物を搬出します。
2・覚悟しておくべき期間
スムーズに和解できるか、強制執行までもつれ込むかで期間は大きく変わりますので、最悪の事態を想定した期間を見込むべきです。
1・任意交渉(1~2か月)・・・弁護士を通じた交渉で、ここで合意できれば最短で解決。
2・訴訟手続き(3~6か月)・・・相手が争う場合、長期化します。
3・強制執行(1~2か月)・・・申し立てから断行までの期間。
トータルで約半年~1年ほどかかる計算です。
3・覚悟しておくべき費用
・弁護士費用(着手金・報酬金):約50万~100万円以上
・強制執行費用(予納金・作業費):約50万~100万円以上
・立退料(解決金):約50万~200万円(任意)
→訴訟と強制執行の費用と時間を天秤にかけて、実務的な解決策として提示する予算です。
・保有期間中の維持費:区分マンションであれば、管理費や修繕積立金、固都税など。
・リフォーム、残置物撤去費:敵対的な退去になると、室内が荒らされたり、設備などを意図的に破壊されたりするリスクも加味したリフォーム費用も必要。
4・最大のリスク「内縁関係」の主張
元愛人が単なる居候ではなく「内縁の妻(事実婚)」であったと主張してくるのが最大のリスクです。
日本の判例では、内縁の妻の居住権は一定の保護を受ける傾向にあり、もし相手が「亡き父とは事実上、夫婦として生活しており、居住権を相続した(または使用貸借が継続している)」と主張し、それを裁判所が認めた場合、明渡し請求自体が棄却される(追い出せない)ことになります。
過去の判例などから、元愛人が「内縁の妻」として保護される要件や、それを否定するための確認ポイントを開設します。
最高裁判例(昭和39年10月13日)において、被相続人と同居していた内縁の妻に対し、相続人が直ちに建物の明け渡しを求めることは「権利の濫用」にあたるとして許されないとされた事例があります。
この強力な保護を相手方が享受できるのか、単なる「不法占拠者」として排除できるのかを見極めることが本件の肝となります。
内縁関係と認められる2つの要件
法律上、内縁(事実婚)として保護されるには、以下の2つの要件を両方満たす必要があります。
①婚姻の意思:婚姻届けを出していないが、お互いに夫婦として一生連れ添うという合意があること。
②夫婦生活の実態:実際に同居して家計を共にし、社会生活上も夫婦として実態を備えていること。
内縁関係を否定(打破)する確認ポイント
相手が「私は実質的な妻だから住み続ける権利がある」と主張してきた場合、以下のポイントでその主張を崩せるかが、訴訟の勝敗(明渡しを受けれるか)を分けます。
①戸籍上の妻との婚姻関係(重婚的内縁の成否):亡き父に戸籍上の妻がいた場合、重要なポイントになります。確認すべきは、亡き父と戸籍上の妻との夫婦関係は完全に破綻していたか?破綻していなければ、愛人とは単なる不倫関係とみなされ、法的な保護(居住権の主張)は認められにくくなります。
②居住実態は「生活の本拠」なのか「通い」なのか:亡き父の住民票はどこにあったか?毎日の寝起きはその物件だったのか?
亡き父が実は別の自宅に住んでおり、愛人の住む物件には「たまに通っていただけ」であれば、夫婦共同生活の実態は否定されます。単に愛人のために部屋を無償で貸与していた(通常の使用貸借)とみなされやすくなります。
③家計の同一性と経済的依存度:お金の流れを見て夫婦としての実態があったのかを探ります。愛人は自活していたか?亡き父からお小遣いをもらっていただけか?それとも完全に財布を一つにして生活費を共有していたか?を確認し、一方的な援助やパパ活のような「対価」としての資金提供であれば、内縁関係とは認められません。
④社会的な認識:近所の目にはどう映っていたか。亡き父は周囲や親族に「妻です」と紹介していたか?周囲から見て、夫婦として認知されておらず、日陰の存在として素性を隠していたのであれば、「婚姻の意思」や社会的実態が否定されやすくなります。
結果、愛人が内縁の妻であった場合、相続人が使用貸借の終了を主張しても退去を拒まれた時に追い出す方法は?
もし、相手が法的に「内縁の妻」として保護される要件を満たしてしまった場合、状況は一変し、相続人(ご相談者)の立場から強制的に追い出すことは極めて困難になります。
ここからは、実務上で直面する厳しい現実と、事態を打破するための「プロとしての戦略(買い取りによる第三者対抗)」について解説します。
1・相続人からの「無償明渡請求」は裁判で負ける
最高裁の判例によれば、内縁の妻の居住権は非常に手厚く保護されています。そのため、相続人が「所有権」や「使用貸借の終了」を盾にして明渡しを求めても裁判所は権利の濫用として請求を棄却します。
つまり、相続人が「出て行ってくれ」と裁判しても内縁の妻がそこに住み続ける限り、無償で居住する権利(暗黙の使用貸借の継続)が認められてしまうのです。
この状態を相続人が解決するには、以下の2つの方法しかありません。
①圧倒的な「正当事由」の証明(現実的には困難)
相続人自身が「今すぐその物件に住まないと路上生活になる」といった、内縁の妻の居住権を上回るほどの切迫した事情(正当事由)が証明できれば明渡しが認められる余地はありますが、実務上、これが認められるハードルは絶望的に高いです。
②高額な立退料による合意退去
実務上、相続人が取りえる唯一の現実的な選択肢です。
内縁の妻そしての生活保障を金銭で解決するため、単なる愛人の場合よりも立退料の相場は跳ね上がります。「引っ越し代、新居の契約金、数年分の家賃相当額、生活費」など数百万円単位の解決金を提示して、自分から出て行ってもらうよう交渉するしかありません。
2・買い取りによる事態の打開策(第三者への売却)
相続人が自分で解決できない(または立退料を払いたくない・払えない)場合、第三者である不動産会社が買い取るというアプローチが最大の解決策になりえます。
ここが不動産実務の重要ポイントですが、内縁の妻が持っている強力な権利(使用貸借権)は、あくまで「亡き父(およびその地位を引き継いだ相続人)」との間の個人的な関係に基づくものです。
法律上の大原則:使用貸借権は第三者には対抗できない
建物を買い取って新たな所有者となった第三者(不動産会社など)に対しては、内縁の妻は「私にはここで無償で住む権利がある」と主張(対抗)することができません。
したがって、理論上、以下の流れで合法的に追い出すことが可能です。
①不動産業者などが相続人から現状有姿(占有者あり)で物件を安く買い取る
②所有権移転登記を完了させる
③新所有者が占有者(内縁の妻)へ「不法占拠」を理由とする建物明渡請求訴訟を起こす
④勝訴判決を得て、強制執行を行う
新所有者からの請求であれば、権利の濫用には該当せず、原則として裁判所は明渡を命じます。
最大の注意点:仮装売買と見なされるリスク
この手法を使う際、裁判所が最も厳しくチェックするのが、「追い出し目的の仮装売買ではないか?」ということです。
もし、相続人と不動産会社が結託し、名義だけを移して追い出した後、また相続人に買い戻しさせるといった裏工作がある、あるいは「実勢価格と乖離した不自然な取引」であると裁判官が判断した場合、新所有者からの請求であっても実質的には権利の濫用として棄却される判例(最高裁昭和39年4月9日)があるので注意が必要です。
不動産業者が買い取る場合の必須条件としては、
・仕入れて退去させ、リノベして再販して利益を出すのが目的であること
・重説、売買契約書、資金の移動履歴など取引の実態を残すこと
・対象物件の占有リスク(訴訟、強制執行費用)を正当に控除した合理的な価格での買い取りとすること
となります。
まとめ:実務上の着地点
内縁の妻であることが濃厚な場合、相続人自身が解決するには、多大な精神的苦痛と高額な立退料が必要となります。
このようなケースを解決するには、相続人が裁判しても勝てませんので、
①立退料を払って解決する
もしくは
②全てのリスクを負う不動産業者に安く売る
の二択になりますが、
不動産業者であっても、訴訟費用や強制執行費用がかかる点に加え、最悪のケースとして数年間塩漬けになるランニングコストなどを不動産価格から差し引く必要があるため、物件の状態や立地によっては「ほぼ無償」に近い金額での買い取りになることもあります。
執筆:坂口貴長隆(宅建士28年目)
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